昭和の記憶|竹の湯再生プロジェクト①

昭和の銭湯竹の湯再生プロジェクト

■下関市の市街地にひっそりと残された昭和の銭湯

下関市の市営住宅が立ち並ぶ街並みの一角に、ひとつの古い銭湯があります。
築70年以上の歴史をもつ 「竹の湯」

長い時間をかけて風雨にさらされた壁、薄くなった“湯”の文字。
一見するとただの古びた建物のように見えるかもしれません。
しかしよく目を凝らすと、この建物が歩んできた時間の重さが静かに伝わってきます。

竹の湯は昔から地域の人々の暮らしに寄り添ってきました。
しかし前オーナーのKさんがご高齢となり、営業を続けることが難しくなりました。


■ たったひとりから始まった「残したい」という思い

そんな竹の湯を、「なんとか未来へ残したい」と立ち上がったのが、竹の湯ファンのIさんです。
銭湯ファンであるIさんは市内の他の銭湯にも行きましたが、この竹の湯にしかない雰囲気が好きで竹の湯は特別!と話してくれました。

そしてその竹の湯の魅力に魅せられたIさんは、竹の湯の事業を承継されました。

私にIさんから連絡をいただいた最初のご相談は

「竹の湯の隣に小さなコインランドリーを建てて、竹の湯を残していけるよう収益をつくりたい」
というもの。 事業としてはとても理にかなったアイデアでした。


■ コインランドリー経営には大きな壁が

調査を始めてほどなくして、竹の湯の敷地周辺が 第一種中高層住居専用地域 であることがわかりました。
法的な観点から見ても、実際の運用面から見ても、ここに新たなコインランドリーを新築するのは現実的に厳しいという結論に至りました。 そこで素直に考え直し、竹の湯を残していきたいのであれば竹の湯を復活させることに焦点を当てるほうがいいのでは、と原点回帰することを考えました。


■ 中に入って気づいた。「この空間は、もう二度とつくれない」

竹の湯の扉を開けた瞬間、少しひんやりとした空気の中に、昭和の時間がふわりと残っていました。

木製のロッカーには筆書きの大きな番号が残り、
脱衣所の隅には今では珍しい「貫(かん)」という単位の古い秤。
1貫は約3.75kg。時代と共に忘れ去られていく単位が、ここではふつうに息をしている。

浴室へ向かうと、タイルの色合い、天井の木目、
あらゆる場所に“昭和の暮らし”がそのまま閉じ込められているようでした。

私は下関に15年以上住んでいますが、恥ずかしながら
こんなにも昭和の情緒が色濃く残る場所があることを知りませんでした。

この建物は古いけれども、それ以上に 「取り戻せない時がそのまま残っている」
特別な価値があると感じました。


銭湯文化は消えつつある。でも「コンテンツ」としては新しい

いま、家庭のお風呂が当たり前になり、銭湯に行く人は昔より減っています。
銭湯という文化自体が衰退していると言われることもあります。

しかし、別の視点で見れば、
銭湯は“新しい可能性を持ったコンテンツ”でもあります。

レトロな空間に価値を見出す若い世代が増え、
昭和建築を新しいスポットとして楽しむ文化も広がっています。

銭湯はただの“入浴施設”ではなく、
写真や動画の撮影場所、展示やワークショップの会場、
地域文化に触れる場としての魅力を持っています。

竹の湯はまさに、その可能性を秘めた空間です。


■ 「竹の湯そのものを活かす」再生方法

私はIさんに次のような提案をしました。

▶ 竹の湯をリノベーションし、複合的に活用できる“昭和空間”として再生する。

  • 建物の痛んだ部分を補修し、魅力はそのまま残す
  • リニューアルイベントで地域の方に再発見してもらう
  • 撮影・展示・ワークショップ・マルシェなど多用途に貸し出す
  • 収益を再生のための費用に循環させ、長期的に維持できる状態を作る

竹の湯の価値を高めながら、無理なく運営できる未来をつくる——。
そんなプロジェクトが今から始まります。


■ 竹の湯は、下関の一角でつながれてきた”文化”

竹の湯の壁や天井、道具ひとつひとつには、70年以上の時間が刻まれています。
この空間は、ただ古いだけではありません。
文化として守るべき価値がある。

新しく綺麗な建物では出せない、
「昭和の匂い」や「時間が積もった味わい」が確かにここにあります。

だからこそ、この建物を未来に残していくことに大きな意味があると感じています。


■ ここから、竹の湯の新しい物語が始まります

竹の湯の再生プロジェクトは、まだスタートしたばかりです。
これからリノベーションの様子やイベント準備なども、ブログで発信していく予定です。

どうぞ、これからの竹の湯を楽しみにしていてください。
そして、もしよければ、一度その空気を感じに訪れてみてください。

きっとどこか懐かしくて、落ち着く時間が流れています。